時の桜
春は好きではなかった。少し浮ついたような独特の雰囲気が苦手だった。学生の頃、春になり学年が一つ上がり新しいクラスで新しい仲間の中に自分がいることに、どうしようもない違和感を感じていた。他の人は知らないけど、とにかく僕は春の人事異動がによる空気感が苦手だ。早く平穏で「普通の時間」が流れて欲しいと思っていた。「普通の時間」ってのは僕にとっては最も重要で大事な要素だった。
実家から歩いて1分のさくら並木には普通の時間が流れている。毎年訪れるこの場所には、僕の一年が詰まっているとさえ思えてしまう。ここからはじまり、そして1年が過ぎる。一瞬の出来事ではないはずなのに、まさにさくらの花びらが散るように一年が一瞬で過ぎてゆく。
春は好きとか嫌いとか、そんな分け方は僕にとってちょっと違うような気がした。
僕にとっての春とは「ただこの時を味わい、今この瞬間を生きること」を感じさせる季節なのかもしれない。