メメントモリという核
妻と娘と犬が長野の実家に帰省している。
ぼくは風邪をひいて、ひとり自宅で寝ている。
彼女の声を聞くと昔のことを思い出す。
その透き通ったシンプルな声は、質量ゼロの粒子のように、ぼくのからだをつらぬいてゆく。なにも干渉しようとしないで、ただ通り抜けてゆく。
ほとんどの声はぼくをただ貫いてゆくだけだけど、ごくたまに僕の中の核にぶつかった時だけ、ほんのわずかな光となることがある。
そのわずかな光は、過去の記憶を励起させるには十分なエネルギーとなる。
いつも忙しいという鎧を着て、なにものも跳ね返しながら生きている。
少しずつでもいい。
捨てて行きたい。